映画を最後まで見ても、インテリジェンスを伺わせる役所広司さん演じる平山が、なぜこういう仕事につき、古いアパートに住み、質素な生活を送るようになったのかの背景は判らない。麻生祐未さん演じる妹とその会話から察するに、それなりの家庭に生まれ、ある程度の教育を受けていることは間違いなさそう。さらにいうと、何か事情があっての犯罪歴というのはあまり感じなかった。ただ、過去に何かに抵抗し、何かを受け入れたんだろうなという覚悟みたいなものを感じた。終わりの方で三浦友和さんが出てくる。馴染のバーの女将の元旦那。彼は彼で癌のステージ3?を宣告され、抗がん剤治療を受けているらしい。人生の終わりが見えてきたとき、自分の人生に係わり、何らかの形で自分を支えてくれた人に感謝の気持ちを伝える。それは人生の普通の毎日を送らせてくれた人たちへの感謝。木漏れ日と同じように毎日は同じようで同じ時はひとつもない。そういう人生のピースを共に歩んだ人たちへの感謝の気持ちだ。
学校でも会社でも人生でも、その日常に終わりが見えてきたとき、なんでもない当たり前の日々が懐かしく、その当たり前だと思っていた日常に幸せを感じる。そこには感謝しかないのだけど、平山の日常に何となくそういうものを感じさせる作品でした。
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬