りおパパの日記

徒然なるままに。ドトールのコーヒーが好きです。

大国の掟 「歴史×地理」で解きほぐす

佐藤優さんの「大国の掟 『歴史×地理』で解きほぐす」を読みました。確かに歴史×地理ということになるのかな。民族(宗教)と地形(物理的な位置関係)という方がピンとくるかもしれません。国と地域を考えるとき、その国に暮らす人々がどういう歴史を持ち、どういう宗教観を持っているのか、その国がどういう位置づけにあって、隣国とどういうかかわり方をしていたのかを理解することは重要。とりわけ、アメリカ、ドイツ、ロシア、中東、中国というのはそれぞれの立ち位置と民族・宗教があって、歴史的な役割を演じてきた主役級の地域・・・参考資料をベースにもう少し勉強したいと思いました。

序 章 国際情勢への二つのアプローチ
第一章 英米を動かす掟─「トランプ現象」と「英国EU離脱」の共通点
第二章 ドイツを動かす掟─「生存圏」から「EU帝国」へ
第三章 ロシアを動かす掟─スターリンプーチンの「ユーラシア主義」
第四章 中東を動かす掟─「サイクス・ピコ協定」から「IS」まで
第五章 中国を動かす掟─「海」と「陸」の二兎を追えるか
終 章 「歴史×地理」で考える日本の課題
●英米を動かす掟─「トランプ現象」と「英国EU離脱」の共通点
・つまりモンロー宣言とは、アメリカの裏庭である中南米への影響力を拡大し、同時にヨーロッパの影響力を排除することを目的とするものだったのです。
・一七八九年から一九一四年が「長い一九世紀」なのか──それはこの時代が「啓蒙思想の時代」だからです。理性を用いて知識を増やし、科学技術を発展させれば理想的な世の中が実現すると考えるのが啓蒙思想です。
啓蒙主義は、物体であれ人間社会であれ、個が集まって全体が成立すると捉える原子論的な考え方をモデルとします。そのため原子論モデルは、個としてのあり方を尊重するという点で孤立主義とも相性がいい。アメリカが第一次世界大戦以降も孤立主義を継続した背景には、こうした原子論的な啓蒙の精神がすけて見えるのです。
・民主主義者も共産主義者も「自分が絶対に正しい」と考えるため、思想や行動が硬直化してしまう。それに比べてヒトラーのような「闇の子」は、正邪、善悪といった価値観に無関心なので、力にだけ依存してどんな残虐な行動をとることもできる。つまり「光の子」は、力の使い方という点ではナチスよりも「愚か」なのです
新自由主義とは、政府による社会保障や再分配を極力排し、企業や個人の自由競争を推進することが最大限の成長と効率のいい富の分配を達成するという経済学的な立場を指します。
・そもそもアメリカは、人間の間には差異があることを前提とする非平等的社会でした。それまでは白人同士の間で差異を見出していたのが、新大陸でもっと大きな差異をもつ人種と出会ったことで、「白人とそれ以外」というより大きな対立軸が生まれた。そして結果的に白人間での差異が解消された、ということです。すなわち、独立宣言で言う「人間」とは、白人のことだというのです。
・アメリカ民主主義はつねに「それ以外の存在」、すなわち「外部」を必要とすることがわかります。
●ドイツを動かす掟─「生存圏」から「EU帝国」へ
・ホブズボームは、一七八九年のフランス革命から一九一三年までを「長い一九世紀」と位置づけ、一九一四年から九一年のソ連崩壊までを「短い二〇世紀」と呼びました。
・ホブズボームは、二〇世紀をドイツの世紀として描いています。二〇世紀に入り、ドイツをどうやって取り込むかという問題に直面した世界は、二度の世界大戦を経て、どうにか軟着陸に至った。これが二〇世紀を論じる際の最大のテーマであり、二〇世紀とはドイツに翻弄された時代だったということです。
・ヨーロッパの文明と称するものは、とりもなおさずアジア民族の侵入にたいする、ごくありきたりの意味の戦いの産物にほかならなかった
・「ハートランド」とは東欧、ロシア、ユーラシア内陸部のことをいい、「世界島」とはユーラシア大陸全体を示す言葉です。
東ドイツでは、「旧ナチス」というだけで戦犯にすると、国家の運営ができない状態でした。そこでソビエト軍事政府は、ナチ党に所属していただけで戦争犯罪には手を染めなかった党員に社会復帰への道を開き、市民権や政治的権利を回復し、一九四八年には非ナチ化終了を正式に宣言しました。
・旧ナチス党員のテクノクラート(技術官僚)に対して寛容な政策をとったことで、東ドイツではナチズムが完全に解体されない状況が生じてしまったのです。
ギリシャという国家は、一八二一年のギリシャ独立戦争が発端となって誕生します。オスマン・トルコの支配下にあったギリシャが独立を求めて蜂起したのですが、独立戦争の陰の主役は、イギリスとロシアです。ギリシャは一九世紀に恣意的につくられた国家だと言ってもいいでしょう。
・EU最大の目的は、ナショナリズムの抑制です。
・コルプス・クリスティアヌムとは、ユダヤ・キリスト教一神教の伝統である「ヘブライズム」、ギリシャ古典哲学の伝統である「ヘレニズム」、ローマ帝国のラテン法の伝統である「ラティニズム」という三つの要素から構成された総合体のことをいいます。日本語に訳せば「キリスト教共同体」です。
●ロシアを動かす掟─スターリンプーチンの「ユーラシア主義」
・「力の均衡」や「地政学」を重視するプーチンの国家戦略は、共産主義イデオロギーにもとづく旧ソ連の外交戦略とは、水と油の関係のように見えます。しかし、そうではありません。プーチンの文法と、旧ソ連、とりわけスターリン政権下の文法との間には、明確な共通点があるのです。それが「ユーラシア主義」と「緩衝地帯」という二つの概念です。
・「ルスキー」が血筋の意味でのロシア人であるのに対し、「ロシヤーニン」は王朝に忠誠を誓う臣民という意味でのロシア人のことで、歴史的にロシアでは「ロシヤーニン」のほうが、重要な意味をもっていました。
・ロシアは欧州やアメリカ、アジアとは異なった論理と発展法則をもっているというのが、ユーラシア主義者の主張です。
プーチンは、ソ連のようにユーラシア諸国を政治的に併合することを求めませんが、ロシアを核とする共同圏をユーラシアに形成しようとしているのです。これは大東亜共栄圏と親和的な発想と言えるでしょう。
●中東を動かす掟─「サイクス・ピコ協定」から「IS」まで
サイクス・ピコ協定とは、イギリス、フランス、ロシアの三国が、第一次世界大戦終結後のオスマン帝国の領土分割や勢力範囲を取り決めたものです。そこで決められた中東分割の線引き、つまり国境線は、宗教事情や部族分布、資源配置などとまったく関係のない人為的なものでした。そのときに建設された国家が機能不全を起こしていることが「原因」であり、その「結果」としてISが誕生したのです。
・アラブ世界だけは、人権から神権の転換が起こらなかった。だから、現在でも神権です。神権では、神が決めたことがすべてであり、人間が自己統治する余地はありません。
●中国を動かす掟─「海」と「陸」の二兎を追えるか
●「歴史×地理」で考える日本の課題
・日本は長崎の出島以外に三つの外交窓口をもっていました。長崎を含めて、江戸期には「四つの口」があったことが定説になっています。
南北戦争は一八六一年に起き、六五年に終結しました。明治維新南北戦争の数年後ですから、当時のアメリカは国内統一に忙しく、対外的な政策を取ることができなかった。
地政学では、地理的制約条件のうえに、宗教、文化、国家、民族などのさまざまな要因が変数となって、複雑な方程式を形成しているのです。
・インテリジェンスの現場では(情報収集やロビー活動だけでなく分析部局でも)反射神経が重要になる。それが五〇代になると急速に衰えてくるからだ。
・必ず話題になるのが、歴史、地理と宗教の話だ。それに加えてアルゴリズム(算法)の話もよく出る。

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