りおパパの日記

徒然なるままに。ドトールのコーヒーが好きです。

ドーン

 今年はこの平野啓一郎という作家の作品を読むことになったのが、読書面での大きな変化かもしれない。この「ドーン」という作品、結構な長編だし、場面の切り替わりに頭がついていけなくて最初は結構読み進めるのに苦労したのだけど、平野啓一郎さんが書く半分SF的な未来絵の結末がどうなるのかを知りたくて、少しずつ読み進めました。まず、面白いと思ったのは分人という考え方。本の中では、「日本語で〈分人〉って言ってるその dividual は、〈個人〉individualも、対人関係ごとに、あるいは、居場所ごとに、もっとこまかく『分けることができる』っていう発想なんだよ。(中略)相手とうまくやろうと思えば、どうしても変わってこざるを得ない。その現象を、個人 individual が、分人化 dividualize されるって言うんだ。で、そのそれぞれの僕が分人 dividual。個人は、だから、分人の集合なんだよ。──そういう考え方を分人主義 dividualism って呼んでる。」と説明されている。そして、「人間は、ディヴをそれなりにたくさん抱えて、色んな自分を生きることでバランスが取れてるんだと思う。その相手がいないと、行き場を失ったディヴは、過去の記憶や未来の想像の中にばかり溢れ返ってしまう。」さらに「誰も自分の中のすべてのディヴィジュアルに満足することなど出来ない。しかし、一つでも満更でもないディヴィジュアルがあれば、それを足場にして生きていくことが出来るはずだ。」という発言があるように、この作品全体はこの分人という考え方がとても大事なポジションを占めている。大切な人を失ってしまったディブは行き場を失ってしまうこと。全てがダメだと思った時も、満更でもない自分のディブがあれば、生きていくことができること。そして、「人間は、社会に有益だから生きていて良いんじゃない。生きているから、何か社会に有益なことをするんだ。」という言葉も心に響いた。大変不名誉なことがあって、絶望があって、でもまずは生きることが一番。そして生きている中で、満更でもないディブを見つけていければ、何か社会的に有益なことができるという風につながるのではないかなと思料する。

ドーンというのは2030年代に火星に有人宇宙船が火星探索に行くという話。日本人宇宙飛行士であり医師である明日人はこの計画に参加し、見事に帰還した英雄だけど、宇宙船の中で女性宇宙飛行士を妊娠させ、堕胎させるという事件の当事者になる。明日人が結婚していること、女性宇宙飛行士の父親は保守派の副大統領候補の政治家で堕胎には反対派。こうしたこともあって、宇宙船内の事故の発覚は英雄を一気にダーティーなイメージに貶めてしまう。そもそも明日人がなぜ宇宙飛行士になったのか。明日人には東京大地震で失った一人息子の太陽という子供がいた。太陽に向かっていたディブが行き場を失ったことが根底にあった訳だ。事件発覚後、ボロボロになった明日人は結局自分のディブを整理するきっかけをつかみ、最後は立ち直れたのかな・・・ディブを整理して妻今日子との関係を再構築できたところで物語は終わるという理解をした。

ドーン (講談社文庫)

ドーン (講談社文庫)

 

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