りおパパの日記

徒然なるままに。ドトールのコーヒーが好きです。

データの見えざる手

矢野和男さんの「データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則」を読みました。この本 もっと早くに読んでおくべきでした。得られた知見が本当に多かった。まず、データを取って客観的にみることですね。

まず、技術者らしくエネルギーの保存則の話から。これらの方程式が自然法則の基本であり、それらがすべて保存則、とくに「エネルギーの保存則」から派生する式だとすれば、「エネルギー」の概念こそが、自然現象の科学的な理解の中心にあることから始まって、人間が1日に使えるエネルギーの総量とその配分の仕方は、法則により制限されており、そのせいで自分の意思のままに時間を使うことができないことをウエアラブルセンサの計測結果から示している。見事に指数分布(本ではU分布と書いてある)に従うらしい。そこには「繰り返しの力」という人間が普段感覚として意識していない力が働いて、世の中を動かしているという。学生時代に読んだフェラーの「確率論とその応用」でもそんな話が出ていたことを思い出した。勝ち負けは偶然に起こったとしても、それを繰り返していくうちに、凄く勝つ人と負け込む人に偏りが生まれるという話だ。にわかに信じがたい話だけど、ちょっと考えるとすぐわかる。例えば、最初に1回、偶然勝ったとして、+1とすると、+1の状態が-1になるためには2回続けて負けないといけない。その確率は1/4。つまり1度勝つとなかなか負け側には行かないし、逆もまた真。フェラーを勉強した時に、割と最初が肝心だと思った記憶があるけれど、その話がまた出てきた。「繰り返しの力」ってそういうもの。だから貧富の差ができる。実社会ではこれに本当の意味での能力差があるから、より格差は広がる。ただ、ここで言いたいのは格差のことではなく、人間の活動自体が指数分布に従っているということ。具体的には1分当たり60回以上の動きをするのは1日の半分だが、1分当たり120回以上の動きとなると1/4、180回以上となると1/8になるということらしい。筆者いわく1日の時間を有効に使うには、さまざまな帯域の活動予算を知って、バランスよくすべての帯域の活動予算(エネルギー)を使うことが大切だと気づく。これを無視して、ToDoリストを作ったり、1日の予定を決めたりしても、結局はその通りにはならないということらしい。

あと、ハピネスは計測できるという話。まず、人間にとって、自分から積極的に行動を起こしたかどうかが重要らしい。心理学の調査結果によると、人は自ら意図を持って何かを行うことで、幸福感を得ることが判っている。具体的には人に感謝を表す、困っている人を助けてあげる、そういう日常の簡単なことで人間はハピネスを感じているらしい。つまり、行動を起こした結果、成功したかが重要なのではないく、行動を起こすこと自体が、人の幸せだというのだ。幸福な人は、仕事のパフォーマンスが高く、クリエイティブで、収入レベルも高く、結婚の成功率が高く、友達に恵まれ、健康で寿命が長いことが確かめられている。定量的には、幸せな人は、仕事の生産性が平均で 37%高く、クリエイティビティは300%も高い。重要なことは、仕事ができる人は成功するので幸せになる、というのでなく、幸せな人は仕事ができるということだ。そして、ハピネスと身体活動の総量との関係が強い相関を示しているらしい。ハピネスを研究しているリュボミルスキ教授とのコラボの結果は興味深い。毎週、「良かったこと」を書き出してもらった対象群と、単に「できごと」を書き出してもらった対象群では、「良かったこと」を書き出してくれた対象群の方がハピネス度が高かった。そして、その対象群の方が活動量が活発だったという実験結果が出ている。

これを企業の生産性と結び付けるところもあって、研究によると、身体運動の活発度は、人から人へと伝染するらしい。まわりの人たちが活発だと自分も活発になりやすく、まわりの人たちの身体運動が停滞すると、自分も停滞する。結果、ハピネスとは実は集団現象だということになる。ハピネスは、個人のなかに閉じて生じると捉えるより、むしろ、集団において人と人との間の相互作用のなかに起こる現象と捉えるべきものらしい。そして、集団にハピネスが起きれば、企業の業績・生産性が高まる。「活発な現場」では「社員の生産性が高まる」し、一方「活発でない現場」では「社員の生産性が低くなる」のは普遍的・一般的な傾向ということになる。

もうひとつ、運も計測できるという話。仕事がうまくいく人は、共通して「到達度」が高いというのである。「到達度」とは、自分の知り合いの知り合いまで(2ステップ)含めて何人の人にたどり着けるかというもの。あと「三角形」が多いことも重要らしい。つまり自分の知り合いAとBがお互いに知り合いであり、そこには「三角形」ができるということ。三角形が多いと、リーダーが直接的に介入しなくても、現場で自律的に問題が解決される可能性が上昇するためらしい。まあ、一言でいうと職場のコミュニケーションなのだけど、情報を集中させるのではなく流通させることで組織の成果は高まるということでしょうか。

色々なセンサーで体の動きを計測すると、このコミュニケーションの密度も判るらしい。まあ、それは何となく判らないでもない。積極的に話に入り込んでいけば、体の動きも出るだろうし、興味がなければ、あるいは聞き流していれば、体は動かない。それが数値化できてしまうという話。

最後はAIの話でしたが、これはこれで面白かったけど、ここまでの話の知見に比べるとそんなに新しいものではなかったような気がする。まあ、書かれた時期を考えれば凄いのかな。とりあえず、色々な知見を得られる良書でした。

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