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人口と日本経済

 吉川洋先生の「人口と日本経済」を読みました。少子高齢化は日本の大きな課題。この人口が減ることに対して、あまりにもペシミズム過ぎるというのが本書の主張。少なくとも先進国の経済成長は人口よりもイノベーションによってもたらされてきた。人口の影響はイノベーションに比べると極めて小さいというのが根本的なところにあって、イノベーションも科学技術だけではないという。スタバの提供するコーヒーには技術的には大きなイノベーションはないが、ゆったりとしたカフェでくつろぎながらコーヒーを飲むという、時間の過し方をスタバは提案した。こういうのも立派にイノベーションだという。ハイライトが多いけど、大変勉強になりました。

・人口減少は確かに重大な問題なのだが、その一方で、わが国では日本経済の経済成長について「人口減少ペシミズム」が行き過ぎている。
・人口にしても寿命にしても、それに大きな影響を与えるのは「一人当たり」の所得である。一人当たりの所得を上昇させるのは「イノベーション」だ。これが先進国の経済成長を生み出す源泉である。
・食料の供給は人口の増加に追いつかない。これこそが「人口論」の基本テーゼだ。
マルサスによれば、もし人口と食料が同じペースで増え貧困が存在しなかったら、恐らく人類は怠惰をむさぼり、野蛮から抜け出すことはなかったに違いない。貧困のプレッシャーがあったればこそ、人間は努力し文明を進歩させてきた。
ダーウィン自然淘汰のインスピレーションをマルサス人口論から得たのである。
ケインズベルサイユ条約がヨーロッパの安定と平和に全く資することのない非現実的な復讐に過ぎないことを見抜き、講義の末、イギリス外交団を辞任した。
・繁栄の19世紀には、冨の不平等が貯蓄を通して経済の発展をもたらした。不平等が存在するために、余裕のある金持ちが貯蓄をし、それが資本貯蓄に回り経済社会は進歩するのだ。つまり、不平等は人間の社会が進歩するための必要悪なのだ。これが19世紀保守主義者の考え方だった。
・投資に繋がらない貯蓄は、ただ「消費しない」だけで、経済に「需要不足」を生み出す。不平等は経済の成長の源泉ではなく、逆に桎梏となる時代が幕をあけた。
・資本主義のエンジンともいえる投資が不足すると不況に陥る。これが1936年に刊行された「一般理論」の結論である。・・・需要が不足しているために人々は失業し、機械設備も使われず遊休化する。これが不況、すなわち「豊かさの中の貧困」だ。
・20世紀は、旺盛な投資に期待できない。投資の代わり、消費が有効需要を支えなければならない。そのためには、稼いだ所得を貯蓄に回してしまう富裕層から、消費をする一般大衆へと所得の再分配を行わなければならない。これが人口減少時代を迎えた1930年代のイギリスでケインズが行った講演の概要である。
・ミュンダールは、公的年金を通して高齢者のサポートを家庭内の手当てから社会全体の仕組みへ転換したのと同じように、出産、子育てについても、それぞれの家庭の負担から社会全体で負担する制度へ転換しなければならないと主張したのである。・・・ミュンダールは現金給付よりも現物給付の方が望ましいと言っている。
・明治から今日までの150年間、経済成長と人口はほとんど関係ない。
・一国経済全体で労働生産性の上昇をもたらす最大の要因は、新しい設備や機械を投入する「資本貯蓄」と広い意味での「技術進歩」すなわち「イノベーション」である。
・経済における「技術進歩」はハードな技術の進歩だけではない。ハードな技術と並んで、いや場合によってはそれ以上に、ノウハウや経営力などのソフトな技術が重要なのである。
・歴史を振り返ると、伝統的に人間がやっていた仕事の多くは機械によって代替されてきた。しかしその結果、人間はお払い箱になったのではなく、むしろ労働生産性が上がり、賃金は上昇してきた。つまり、人々は機械のおかげで豊かになってきたのである。
リカードは一貫して機械の導入は労働者の利益を増進すると考えてきた、しかし、晩年に刊行した「原理」では、機械により労働者が著しく不利益をこうむることがありうると主張した。
・21世紀には「安い労働力」は大きなメリットではなくなる。むしろ新しいモノを売るマーケットに近いところでつくるメリットの方が大きくなる。
・平均寿命は一人当たりの所得水準と高い相関関係を持っている
・戦後寿命が順調に延びた理由あ3つある。第一に経済成長により一人当たりの所得が上昇したこと。第二に医学の進歩。そして第三に国民全体をカバーする皆保険の成立がある。
・戦前は戦後に比べてはるかに不平等社会だった。・・・所得の不平等より寿命の不平等はもっと大きかったのである。
・戦前とは対照的に、戦後は一転して寿命が急速に延び、日本は世界の最長寿国になった。これは、戦後日本の最大の成果なのである。
・マンデヴィルは「ぜいたく」「奢侈」こそが一国の経済社会の反映を生み出すと自らの社会経済哲学を開陳した。・・・「需要」こそが一国経済の状態を決める、というケインズの「有効需要の原理」からすれば、マンデヴィルは「ケインズ経済学」の先駆けであったのである。
・既存のモノやサービスに対する需要が飽和に達するなら、モノやサービスのリストが変わらないかぎり、経済全体の成長もやがてゼロ成長に向けて収束していかざるをえない。・・・需要の不足によって生まれる不況を、ケインズは政府の公共投資と低金利で克服せよと説いた。シュンペーターは、需要の飽和による低成長を乗り切る鍵はイノベーション以外にないと説いた。
アダム・スミスをはじめ時代を代表する経済学者たちは皆、経済の成長・発展こそが「豊かさ」の基だと考えてきた。どれほど「水準」が高くてもゼロ成長では豊かさをもたらさない。これが経済学者の考え方だった。
・経済が発展して人々の暮らしが便利になっても、必ずしも「豊かさ」を実感できないこと、これを漱石は「開化の生んだ一大パラドックス」と呼んだ。
・ミルは自らの理想を次のように述べている。人間にとって最善の状態は、誰も貧しくなく、さらに豊かになろうとも思わず、豊かになろうとする他人の努力により誰も脅威を感じることがないような状態である。なるほど発展途上国では経済成長が必要だろうが、イギリスのような国にとって必要なのは、成長ではなくより平等な所得分配である。
・低成長だった江戸時代をサスティナブルで落ち着きのある社会だったと美化するのはあまりに一面的な見方であると思う。・・・骨は江戸時代の人々の暮らしぶりを伝えている。栄養状態が悪く、特に鉄分が不足していた。現代なら死亡率低い若い世代の骨が多いのも特徴で、伝染病がたびたび流行し、人が簡単に死んだことを物語るという。成人の平均身長は男性が130センチ台半ばで、女性はそれより10センチほど低い。日本の全ての時代の中で最も小柄だった。栄養状態が悪い上に狭い長屋などに密集して生活したストレスの影響と考えられるという。生活は厳しかった。スラムといった方がいい江戸の影の部分が骨には記録されています。
・プロダクト・イノベーションによって生み出されるモノやサービスの多くは、回りまわって平均寿命の延長に貢献してきたものと考えられる。
・成熟した先進国においても、それぞれの経済に合った経済成長の方が、ゼロ成長よりはるかに自然だ。

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