伊神満さんの「『イノベータのジレンマ』の経済学的解明」を読みました。伊神先生は
イェール大学の准教授。本当は実績を残すために、日本語の本など書いている場合ではないと思うのだけど、後書きにあるように色々な思いがあって休日を使ってこの本を書いたようです。これ、本ではなくて授業とかで直接話を聴いたら、きっともっと面白かったのだろうなと思いました。
この本は結構面白い構成で、最初にざっとサマリーのようなものが書いてある。さすがは大学の先生。語り口はエッセイ調。
説明されている経済理論は3つ。置換効果(共食い)、抜け駆け、能力格差。実証研究の手法も3つあってデータ分析、比較対象実験、シミュレーション。で、そもそものクリステンセン先生のHDDの事例をベースに実証研究の結果を示すというもの。
最後の最後にまとめが書いてあって、これも3つ。
①既存企業は、例え有能で戦略的で合理的であったとしても、新旧技術や事業間の「共食い」がある限り、新参企業ほどにはイノベーションに本気になれない。(イノベータのジレンマの経済学的解明)
②この「ジレンマ」を解決して生き延びるには、何らかの形で「共食い」を容認し、推進する必要があるが、それは企業価値の最大化という株主にとっての利益に反する可能性がある。一概に良いとは言えない。(創造的「自己」破壊のジレンマ)
③よくある「イノベーション促進政策」に大した効果は期待できないが、逆の言い方をすれば、現実のIT系産業は、丁度良い「競争と技術革新のバランス」で発展してきたことになる。これは社会的に喜ばしい事態である。(創造的破壊の真意)
これが結論なのだけど、印象的な引用が2つあった。
「自分がもっともほしいものが何か判っていない奴は、欲しいものを手に入れることは絶対にできない。キクはいつもそう考えている」(村上龍「コインロッカー・ベイビース」
UCLAのエド・リーマー博士の2つの質問。1)「君の問いは何だ? What's your question?」2)「世の中の誰がその問いに関心を払うべきか? Who should care about your questions?」
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