西垣通さんの「集合知とは何か」を読みました。同じ西垣通さんの「ビッグデータと人工知能」の中に「集合知」の話が出ていて、興味を持って買っていたのだけど、積読状態でしばし。やっと余裕もできたので、読んだのだけど難しかった。一言でいえば「知」とは何か?であり、人間の知は極めて内面的で判りようのないものだから、人工知能時代にすべてができるようになると考えるのは誤りという主張だったと思います。
ハイライトしたのは以下。
・集合知定理(多様性予測定理):集団誤差=平均個人誤差ー分散値
・集合知定理が示すのは、「集団における個々人の推測の誤差は多様性によって相殺され、結果的に集団としては正解に近い推測ができる」ということ
・アローの定理:集団メンバーのそれぞれが合理的な価値判断をしていても、常に集団の「総意」として合理的な判断を与えるようなルールは存在しない
・ヒルベルトは「無矛盾な公理系から導かれる真なる命題は、必ず(形式的操作で)証明できる」と考えたのだが、このテーゼはクルト・ゲーデルによって否定された。
・チューリングやフォン・ノイマンなどの多くのコンピュータ研究者たちは、自己言及パラドックスのような例外はあるにせよ、基本的には記号の形式的操作によって人間の思考活動をシュミレートでき、正しい知が自動的に求まるという考え方であった
・人間の思考というものの理想系を「形式的ルールに基づく論理命題の記号操作」とのみとらえ、それを実現する「汎用機械」としてコンピュータを位置づけるという20世紀的考え方は、大きな壁にぶつかった
・人工知能コンピュータにとって困難なのは、パズルのような論理的難問を解くことではない。刻々と変化する環境のもとで、常識と直感を働かせ、臨機応変に行動することである。
・第五世代コンピュータの失敗の原因はとして、人間の思考を「形式的ルールに基づく論理命題の記号操作」ととらえる西洋流の発想が本当に妥当なのか否かきちんと考察すべきだったのである。
・脳をいかに科学的にに測定したところで、その脳を持っている人物が感じているクオリアには決して到達できない。・・・クオリアは徹頭徹尾内部から主観的に感じられるものだ
・人間の知識は、例え科学的なものであっても、あくまで個人が主体的に対象と係わることで形成されるのであり、論理と実証といった「客観的」な手続きによって導かれるのではない。・・・知識からすべての個人的要素を除外しようと努力すると、逆に知識は破壊されていますのだ。
・暗黙知の理論:人間の知識の中には、明示的、形式的に表現できない知があり、それが個人だけでなく組織の活動においても非常に重要な役割をもつ
・暗黙知理論の素晴らしさは、ある対象の意味を把握するには、それより会の要素的な諸細目を身体で感知しつつ、対象を全体として包括的に捉える作用が必要だという、生命的な認知のダイナミクスを指摘した点にある。
・生命とは何だろうか。機械との大きな違いは、設計図が無く自生することである。
・個人の代わりに平野(啓一郎)が主張するのは「分人」だ。「一人の人間は『分けられないindividual』存在ではなく、複数に『分けられるdividual』存在である。だからこそ、たった一つの『本当の自分』、首尾一貫した『ブレない』本来の自己などというものは存在しない」と平野は言い切る。
・知というのは根源的には生命体が生きるための実践活動と切り離せない
・生命的な行動のルールは、遺伝的資質を含めた自分の過去の身体的体験に基づいて、時々刻々、自分で動的に作り出さなくてはならない。だから生命体はシステム論的には自律システムなのである。
・ウィーナーの本来の目的は、生命体の機械化ではなく、逆に機械をうまく生命体に組み込んで活用することであった
・人間の心は本来閉じており、その主観世界を内側からとらえる必要がある。もちろん、ITによって明示的な記号は伝達されるが、それらは水面上にあらわれたほんの一部に過ぎない。水面下には暗黙知を含む身体・社会的な認知の階層が深奥まで連なっているのだ。
・フラットで透明な社会、つまり、情報が迅速に伝わりすぎる社会で、質疑応答による議論をしていると、かえって社会は安定しなくなり、適切な秩序ができにくくなる
・人間集団の中に、ある種の不透明性や閉鎖性があるからこそ、我々は生きていけるのである。情報の意味内容がそっくり他者に伝わらなというのは、本質的なことだ。相対的な主幹世界の併存を許しながら、同時に集団内でほどほど安定した統合性やリーダーシップを認めること。それは、千変万化する環境条件の中で集団生活を続けてきた、我々人間という生物の究極の知恵なのである。
集合知とは何か - ネット時代の「知」のゆくえ (中公新書)
- 作者: 西垣通
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2013/02/22
- メディア: 新書
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