りおパパの日記

徒然なるままに。ドトールのコーヒーが好きです。

空気を読む脳

 中野信子先生の「空気を読む脳」を読みました。脳の研究で人の言動がここまで科学的に説明できてしまうのは、ちょっと怖いなとも思ってしまいました。例えば、普段は誰かのために自己犠牲をいとわず真面目に働く、という人が、いったん不公平な仕打ちを受けると、一気に義憤に駆られて行動してしまうという話。自らの損失を顧みず、どんな手を使ってでも、相手に目にもの見せてくれようと燃え立ってしまうらしい。
また、日本人の脳にあるセロトニントランスポーターの量は、世界でもいちばん少ない部類に入るらしい(量を決める遺伝子にバリエーションがあり、量を少なく産生するSS型という遺伝子型を持つ人の割合が日本に多いため)。このことはつまり、世界でも、最も実直で真面目で自己犠牲をいとわない人々ではありますが、いったん怒らせると何をするかわからなくなるという性格があるらしい。セロトニンが不足すると、慢性的にストレスを感じやすくなったり、疲労、イライラ感、向上心の低下、仕事への意欲低下、協調性の欠如、うつ症状、不眠といった症状が出現らしい。ただ、不安の度合いがある程度高いほうが、少なくとも人類進化の初期には、生存に有利であったということを意味していると考えられるらしい。
このセロトニントランスポーターの量は社会性にも影響を及ぼす。社会性を維持するには、各個体の持つ利他性を高め、自己の利益よりも他者または全体の利益を優先するという行動を促進させる必要がある。一方で「利他行動を優先しろ」と他者には攻撃しても、自分の利益は優先できてしまう、という程度のゆるさで社会脳は設定されている、ということらしい。しかし、相手に対して多くを分配する人は利他行動をとりやすいタイプとみなされるわけですが、相手へ分配した分だけ自分のことが尊重されないと、リベンジに走る可能性があることが指摘されているらしい。日本では、ルールを少しでも逸脱した人がバッシングを受けてしまう現象が相次いでいますが、根底には、セロトニントランスポーターが少ない、という脳の生理的なしくみが関与している可能性があるということのようだ。
また、人間は肉体の 脆弱性と子育て期間の異様な長さのために、集団で生き延びることが種の保存に必須であるために社会性が大きく発達した生物であり、結果としてフリーライダーの検出機能と排除の機構がほかの生物よりずっと強力に組み込まれているらしい。その上、日本人は地理的環境のせいか、世界的に見ると集団があまり流動的でなく、集団の結束を個人の意思より優先することを美徳とする傾向がある。この愛情ホルモンは一見、素晴らしいもののようなのですが、妬みの感情をも同時に高めてしまうという性質も持っているとのこと。結果、社会のルールを守る誠実で善良な人ほど、逸脱者への攻撃に熱心になる傾向があることが、複数の研究で報告されている。
またこんな話もある。「頭がいい」と褒められた子どもは、自分は頑張らなくてもよくできるはずだと思うようになり、必要な努力をしようとしなくなる。「本当の自分は『頭がいい』わけではないが、周囲には『頭がいい』と思わせなければならない」と思い込む。「頭がいい」という評価から得られるメリットを維持するため、ウソをつくことに抵抗がなくなる。どこかで見た絵だが、「子どもの素質をただ無批判に褒めること」がここまで説明してきたインポスター症候群の原因になる可能性があるようだ。また、長寿者には共通する「性格」は、良心的で、慎重であり、注意深く、調子に乗らない。いわば真面目で悲観的な性格を持っていることということだ。
「真面目で悲観的な性格」が、実は本人の命を守るための性質であった。
仏教の言い回しを借りれば、コントロールしきろうとする行為は「 灰身滅智」。欲望の種を滅することは自らの身を灰にまで焼き滅するようなものだということです。

空気を読む脳 (講談社+α新書)

空気を読む脳 (講談社+α新書)

  • 作者:中野 信子
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 新書
 

[DATA]

今月の読書 3冊

1月からの読書12冊