りおパパの日記

徒然なるままに。ドトールのコーヒーが好きです。

「学力」の経済学

 中室牧子さんの「『学力』の経済学」を読みました。この本を読んで、日本の教育研究はいろいろな意味で間違っていると感じたのだけど、中でも心に響いたことが2つ。一つは不透明過ぎること。いろいろなデータが開示されず、教育者という人たちに独占されて研究に向けてオープンにされていないこと。これは誤った政策を指摘されたくないという心理から来ているのではないかと疑ってしまいました。もうひとつは「日本の平等教育の弊害として『やればできる』という教えがあること。逆に『結果が出ないのは努力が足りないからだ』といところにつながりやすい」という指摘。「正義は必ず勝つ」というけれど、じゃあ負けたら正義じゃないのかというのと同じ。この考え方が大きな悲劇を呼んでいるように思います。まあ、本当に努力も足りないのだけど、一流になればなるほど、努力が必ず報われるわけではない。だから、欧米では自分の長所を伸ばそうとするのだけど、日本はなかなかそちらに向かわないわけですね。その他とても勉強になりました。ハイライトしたのは以下。

・親の年収や学歴が低くても学力が高い児童の特徴は、家庭で読書をしていること
・子どものころにちゃんと勉強しておくことは、将来の収入を高めることにつながるのです
・教育投資への収益率は、株や債券などの金融資産への投資などと比べても高いことが、多くの研究で示されています。
・与える「目の前ににんじん」作戦は、この性質を逆に利用し、子どもを今勉強するように仕向け、勉強することを先送りさせないという戦略なのです。
・数あるインプットの中でも、本を読むことにご褒美を与えられた子どもたちの学力の上昇は顕著でした。一方で、アウトプットにご褒美を与えられた子どもたちの学力は、意外にも、まったく改善しませんでした
・「インプット」にご褒美が与えられた場合、子どもにとって、何をすべきかは明確です。本を読み、宿題を終えればよいわけです。一方、「アウトプット」にご褒美が与えられた場合、何をすべきか、具体的な方法は示されていません。
・ご褒美は、「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに対して与えるべきだということです。
・子どもの学習の面倒をみる指導者や先輩がいる場合には、アウトプットにご褒美を与えても学力が改善することを発見しました。
・アウトプットにご褒美を与える場合には、どうすれば成績を上げられるのかという方法を教え、導いてくれる人が必要であることがわかります。
・ご褒美が子どもの「一生懸命勉強するのが楽しい」という気持ちを失わせてはいなかったのです。
・お金というご褒美を頭ごなしに否定するのではなく、金融教育も同時に行えば、子どもたちは、お金の価値に加えて、貯蓄することの大切さまでも学んでくれるのです。
・自尊心が高まれば、子どもたちを社会的なリスクから遠ざけることができるという有力な科学的根拠は、ほとんど示されなかったのです。
・学力が高いという「原因」が、自尊心が高いという「結果」をもたらしているのだと結論づけたのです。
・学生の自尊心を高めるような介入は、学生たちの成績を決してよくすることはないことを示しています。
・悪い成績を取った学生に対して自尊心を高めるような介入を行うと、悪い成績を取ったという事実を反省する機会を奪うだけでなく、自分に対して根拠のない自信を持った人にしてしまうのです。
・子どもをほめるときには、「あなたはやればできるのよ」ではなく、「今日は1時間も勉強できたんだね」「今月は遅刻や欠席が一度もなかったね」と具体的に子どもが達成した内容を挙げることが重要です。そうすることによって、さらなる努力を引き出し、難しいことでも挑戦しようとする子どもに育つというのがこの研究から得られた知見です。
・テレビやゲームの時間を制限しても、子どもは自動的に机に向かって勉強するようにはなりません。
・子どもと同性の親のかかわりの効果は高く、とくに男の子にとって父親が果たす役割は重要だからです。
・学力の高い友だちの中にいると、自分の学力にもプラスの影響があるのです。
・学力の高い優秀な友人から影響を受けるのは、そのクラスでもともと学力の高かった子どものみなのです。
・レベルの高すぎるグループに子どもを無理に入れることは、逆効果になる可能性すらあるのです。
・問題児の存在が、学級全体の学力に負の因果効果を与えることを明らかにしました。
・親から虐待を受けている子どもがいる学級では、学級運営が難しくなり、結果として他の子どもの学力が下がる傾向があることが明らかにした研究もあります。
・ルームメイトから「成績」に対して受ける因果効果はほとんどない一方で、「行動」に対して受ける因果効果は大変大きなものだということがわかりました。
・習熟度別学級は、ピア・エフェクトの効果を高め、特定の学力層の子どもたちだけではなく、全体の学力を押し上げるのに有効な政策である
・子どもや若者は、飲酒・喫煙・暴力行為・ドラッグ・カンニングなどの反社会的な行為について、友人からの影響を受けやすいということです。
・もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)です。
・人的資本とは、人間が持つ知識や技能の総称ですから、人的資本への投資には、しつけなどの人格形成や、体力や健康などへの支出も含みます。
・ペリー幼稚園プログラムによって改善されたのは、「非認知スキル」または「非認知能力」と呼ばれるものでした。これは、IQや学力テストで計測される認知能力とは違い、「忍耐力がある」とか、「社会性がある」とか、「意欲的である」といった、人間の気質や性格的な特徴のようなものを指します
・ヘックマン教授らは、学力テストでは計測することができない非認知能力が、人生の成功において極めて重要であることを強調しています。
・一歩学校の外へ出たら、学力以外の能力が圧倒的に大切だというのは、多くの人が実感されているところではないでしょうか
・人生を成功に導くうえで重要だと考えられている非認知能力のひとつは「自制心」です。
・もうひとつの重要な非認知能力として挙げられるのが、「やり抜く力」です。
・非常に遠い先にあるゴールに向けて、興味を失わず、努力し続けることができる気質
・「自制心」は、「筋肉」のように鍛えるとよいと言われています。
・自分のもともとの能力は生まれつきのものではなくて、努力によって後天的に伸ばすことができる」ということを信じる子どもは、「やり抜く力」が強いことがわかっています。
・4つの基本的なモラル(=ウソをついてはいけない、他人に親切にする、ルールを守る、勉強をする)をしつけの一環として親から教わった人は、それらをまったく教わらなかった人と比較すると、年収が86万円高いということを明らかにしています
・これまで日本で実施されてきた「少人数学級」や「子ども手当」は、学力を上げるという政策目標について、費用対効果が低いか効果がないということが、海外のデータを用いた政策評価の中で既に明らかになっている政策であることです。
・家庭の資源に格差がある中で、すべての子どもに同じ教育を行えば格差が拡大していくだけですが、その矛盾は見過ごされがちです。
・ある世代の子ども全員を対象にして「平等」に行われた政策は、親の学歴や所得による教育格差を拡大させてしまうことがあるのです。
・いったん親の学歴によって生じた格差は、子どもの年齢とともに拡大していく可能性があります。
・「子ども手当」のような補助金は学力の向上には因果効果を持たなかったことが明らかにされています。
・学校で平等を重視した教育―「手をつないでゴールしましょう」という方針の運動会など―の影響を受けた人は、他人を思いやり、親切にし合おうという気持ちに「欠ける」大人になってしまうことが明らかになっています。
・子どもは、本人が努力しさえすれば教育によって成功を得られる、別の言い方をすれば、成功しないのは、努力をせずに怠けているからだと考えるようになってしまい、不利な環境におかれている他人を思いやることのないイヤなタイプの人間を多く育ててしまっているのです
・能力の高い教員は、子どもの遺伝や家庭の資源の不利すらも帳消しにしてしまうほどの影響力を持つと結論づけています。
・この学力の変化を経済学の専門用語で「付加価値」(value-added)と呼びます
・付加価値が教員の質の因果効果をとらえるのに、極めてバイアスの少ない方法であることを明らかにしました。
・質の高い教員は、ただ単に子どもの学力を上昇させているということにとどまらず、10代で望まない妊娠をする確率を下げ、大学進学率を高め、将来の収入も高めているということをも明らかにしました。
・「いい先生」とは、昨年も今年もクラスの平均点が80点である先生ではなく、昨年の平均点は30点だったけれども今年は35点にできる先生だということになります。

「学力」の経済学

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